ライフ・イン・ザ・ホワイトコート

「逃げたぞ!探せ!!」
私が居た洞窟の方で声がしたので、急いで牢獄へ向かう。
この30年の人生の中で使ったこともない筋肉を使っているんだろうなあ、という、その場に似つかわしくないぼんやりとした思考を、白衣…というほど既に白くはないそれを翻し、振り払う。
白衣は私たち医者の誇りだ。いくら汚れたからといって、脱ぎ捨てるわけにはいかない。
三日間も縛られていたというのに、思ったよりも足は動いた。

三日前に私が居た牢獄にたどり着くと、二人の男の姿が見えた。
「杉山先生!田野井先生!!」
私が駆け寄って声をかけると、ハッとして顔を上げた。二人とも私より若く、はつらつとしてこの孤島に来たはずだったが、その顔はやつれ果てていた。
「おお、無事だったんですか!よか……あっ……」
目を逸らしたのは、私のスカートの破れと汚れが目に留まったからだろう。
「元気よ」
素っ気なく言って、私は盗んだ鍵束を出した。
「大井先生はどこに?」
合う鍵を探りながら尋ねたが、答えはだいたい解っていた。
「……最初に、僕が、呼ばれたん、ですが」
杉山先生は泣き出した。田野井先生も涙をこらえている。
「ふん、大井先生ったらカッコつけちゃって、何よ」
軽口を叩きながら、昨夜の騒ぎは大井先生が生贄になったお祭りだったのだ、と思う。
恐怖は想像力から生まれる。
思い出した大井先生の笑顔が苦悶の表情に変わりそうな予感を覚えて、すべてを消去する。
「あった!」
簡単な古い鍵だ。扉はすぐに開いた。
「いい?正面突き当たりを左へ。右は遠回りよ」
案内しながら走る。

何が伝説だ。
何が『生きている医者の心臓を食べると永遠の命が得られる』だ。
私たち医者が、患者の命を永らえるためにどれだけの時間と労力と人員と金銭と、あらゆるリソースを割いていると思っているんだ。
心臓食べさせたぐらいで死なない身体が手に入るなら、
「……白衣なんていらないんだからあッ!!!」

後ろから声が聞こえる。
私たちは出口を目指してひたすら走った。

(終)(お題:生きている医者 制限時間:30分)

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