僕のおじいちゃん

ぼくはそっと部屋のドアノブに手をかけた。
チアリはぼくの背中をそっと押しながら、
「お母さんに叱られるわよ」
と言った。
「かまうもんか。おじいちゃんがこの部屋で何してるのか、今日こそつきとめてやるんだ」
「へえ、ずいぶん強気なのね」
チアリが生意気に言ってぼくは肩をすくめた。
こいつが来年、ぼくの中学校に入学することを思い出して、小さくため息をつく。

ドアを押す。
ツンとした匂い。
おじいちゃんの匂いだ。
部屋の真ん中に、絵を立てかける、なんていうんだっけ、イーゼル、だったか、それが置いてある。
「おじいちゃん、絵を描くのかしら」
「見ればわかるだろ、油絵の具だ。ほら、硬くなってる。しばらく描いていないんだ」
ぼくは、絵描きが使う、平らでたまご型で親指を入れる穴が空いているパレットをしげしげとながめていた。
「お兄ちゃん!!」
急にチアリが大きい声を出したのでびっくりして、どきどきしながらチアリの方へ寄っていく。
「なんだよ」
「見て!絵が置いてある!!」

キャンバスの絵は2枚。

1枚目、大人の女の人が白いドレスを着ている絵だ。
「結婚式かしら…笑っているわ」
ぼくはまじまじとその絵を見つめた。
「…これ、おばあちゃんじゃない?」
「えっ?…そうね、写真の中のおばあちゃんに似てる」
チアリはおばあちゃんが亡くなってから生まれた。
「幸せそう」
ぼくを見上げて笑う。
ぼくも頷いて笑った。
「2枚目はなんだろう…」
目の位置まで引き上げたキャンバスに現れた絵が、ぼくらを凍らせた。

2枚目。
大きな木に縄をかけた男の人が、首をくくろうとしている。
ぼくらはしばらくそのまま、動けなかった。

「おじいちゃん……」
僕は縄に手をかけながら、正面に立っている祖父を見つめた。
「僕、知ってたよ。チアリが結婚式を挙げた、あの日に。いつかこうなるってこと…おじいちゃんのあの絵…おじいちゃんは未来を見てたんだね」
祖父の目から涙がこぼれた。
「帰ろう、家に」
僕の視界はぼやけていたけれど、縄が地面にゆっくりと落ちるのを、見た。
「うん」

(終)(お題:謎の傑作 制限時間:30分)

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