されど日々は過ぎて

秘密を作った。

彼女が「ねぇ、」と切り出せば、それは誰にも《秘密》の《秘め事》なのだった。

 

僕が彼女と同じ会社にいるのはあと1ヶ月だから、こうして毎晩のように何処かへ出かけて《秘め事》をしたとしても、せいぜい30回ということになる。
僕はその《秘め事》に性欲の処理以上のものは求めておらず、だからといって彼女の指や、舌や、肉が、僕の情になにも訴えないかというとそういうわけでもなかった。

つまり、僕は、色々と諦めていた。

彼女の漏らす息や、呻きや、ぬめりを信じることができたら、どれだけ僕は救われるだろう。
しかし、それは全て《秘密》なのだ。
《秘密》である限り、僕は世界に存在しない。

僕は透明だ。
ただの人型バイブレータだ。
彼女が僕のかたちをなぞる。
それでも僕は透明だ。
彼女の唇は柔らかで熱い。
髪が乱れて顔を見えなくする。
小さな呻き。
僕は差し出された手を掴んで抱きおこす。
透明か?本当に?
じゃあこれはなんだ?僕は誰だ?
誰にも見えなくったって、あんたには見えてるんだろう僕のことが。
彼女の責めるような目。
僕はそれでいってしまう。
そこだけに僕は存在する。

 

何度《秘め事》を重ねても、秘密は《秘密》のままだった。

 

彼女は「元気で」と言った。
僕は「元気だよ」と応えた。
それ以上、なんのやりとりもなく、僕の30日は終わった。

若干の感傷を携えて僕は、ねぇ、の呪文が効かない世界へ帰る。
しかし、やがては僕も忘れるだろう。
その時こそ《秘密》は完結されるのだ。

 

(了)

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