火星生まれ、温室育ち

「お兄ちゃんのバカ!あたしだってスパー…スパーゲッティー?ぐらいできるもん!!」
「なんだよ!作れるならやってみろ!!」

妹はフライパンを投げた。
くるくると回って飛んでくるそれを僕は避けた。
フライパンは回り続けて運良く……というか運悪く自動ドアを通過し、制御室にがしゃんと落ちた。

僕らは、壊れてしまったコントロールパネルを見つめるしかなかった。

「……どうするの」

先に口を開いたのは妹だった。

「オンド管理も、クウチョー管理もできなくなるわ。シールドが消えるから、ドームはホーシャセンにさらされる。タイキュー日数は……」
「1ヶ月。……いや、25日だったか」
「オンドの上昇が一番激しいのよ。サンソは2ヶ月ほどジキューできるはずだけど」
「大丈夫、修理を呼べば……」
「こんな辺境まで古いキョーシン式システムに対応する修理屋が来るわけないわ」
「来るさ、3ヶ月待てばね」
「……ネツとサンケツで死んだ私たちのところへ来るのよ。ヘラヘラしながら」

妹は泣き出した。

火星生まれ温室育ちの僕らは、自分たちを生かすためのシステムを、自分たちで修理することができなかった。
それを見越してか、火星政府は個々のドームに安全保障をつけていない。
全て自己責任。
親から受けついだドームが破損したら、自分たちで修復するか、修理屋へ依頼するか、他のドームへ入れてもらうしかない。

「修理工へ依頼して、隣のドームへ行ってみよう」

僕たちは、初めて着るボーギョフクで初めてドームの外へ出た。
ビークルで3km。

隣のドームは、無人だった。
荒れ果てていた。

「次だ」

その隣のドームも、その隣のドームも、無人だった。
夜が来ると僕たちはビークルで寝た。
ビークルの燃料は、無人のドームから盗んで補充した。
そうして何日かドームを訪れ続けて、それでも誰にも会えなかった。

「《既知の海》へ行こう」
「本気で言ってるの」
「あ、ああ、もちろん。リクチより安全だってお父さんが」
「お兄ちゃんは嘘が下手ね。あたし、お父さんの日記ちゃんと読んだのよ、『海の住人は陸の住人を敵視している』って」
「……お前は女の子だから、大丈夫だよ」
「??? どういう意味?」
「苦しんで死ななくて済む、ってこと」

妹は全てを悟ったようだった。

「いや……いやよ……あたしそんな未来は望んでない!! そんなことしてまで生きたくない!!! お兄ちゃんだけで死なせないんだから!!」

(時間切れ)

word:
×業腹
○温室育ち
○嘘が下手ね
○既知の海
○そんな未来は望んでない

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