《bar ティアドロップス》

そこは、駅から10分の裏路地。
《bar ティアドロップス》
今にも力尽きそうな古い看板と、年季の入った木製のドア。
これまでに何度も、立ち止まって看板だけ眺めては踵を返す、ということが続いている。

「…まあいいや。どうせお酒強くないし」
今夜もまた、恨めしく呟きながらドアへ背を向ける。と、
「お酒飲めなくても大丈夫よ」
「えっ?」
振り返る。
紺色のイブニングドレスを来た女性が私を見ていた。
あ、いや、その…と口ごもっていると、
「だってあなた、泣いてるもの」

知らぬ間に溜まっていた涙が、ゆっくりとひと粒、こぼれる。
「……いらっしゃいませ」
彼女は静かに微笑んで、ドアを開放した。

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