ふるさと

記憶の中の赤い橋は、長さこそ50メートルほどあれど幅が狭い、小さな橋だった。
「へえ。いつ作り替えたの」
いつの間にか私の横にいる、幼い頃の私が問う。
「高校生の時、だったかな。どんな工事だったっけ…」
私はその小さな手をとって、記憶の橋を渡り始める。車が一台通るたびに自転車も歩行者も止まって、身体を欄干に寄せなければならない。
「忘れたの?」
「うん」
橋の下を流れる川は、きらきらと波打っている。水底に魚の群れが見えた。
私たちは渡りきって振り返る。片側1車線の大きな橋だ。欄干に残る赤だけが、記憶の橋と同じだった。
「もう、無いのね」
小さな手が、ぎゅっと力を入れた。
私はそっとその頭を撫でた。

(了)

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