とめどなく。

2018-03-03

早くしないと、電車が来てしまう。 ねえさま、とわたしは言って、前を歩く制服の腕をつかんだ。 長い髪が私の手をくすぐった。 「ねえさまは、わたしが純血のエルフでなくても……愛してくれたの?」 ねえさまは振り向いて、少し驚い(続きを読む)


農耕貴族 ヴァンパイア鈴木さん

2018-02-03

視望山の麓で野菜作りに精を出す、ヴァンパイアの鈴木さん。 幻界から日本へ移住し、人の生気を吸うことをやめ、農業を始めて8年になる。 産地直売の野菜は、食べると元気が出ると評判だ。 「野菜づくりのコツ? 我は夜にしか畑に出(続きを読む)


まえの学校の友だち

2017-12-02

ぼくは大イチョウの木の大きなウロの前へ立った。 いつものように、幻界に残ったあの子との交換日記をウロの中にしまう。 手早く地面に魔法陣を書いた。転移魔法陣はもう、目をつぶっていても書ける。 右手をかざして呪文をとなえる。(続きを読む)


タンデム・パラレル・センチメンタルな夜

2017-11-21

#1 アパートに帰って、もう一時間になる。 その間、エアコンはフル稼働して、私の部屋は熱帯から温帯にまで涼しくなった。 もうエアコンを止めて窓を開け、シルフの出入りを待っても良いのだけれど、動けずにいる。 仕事のスーツの(続きを読む)


星回廊、にて。

2017-10-07

燈籠町で最近人気なのが『星回廊』という名の和食店。 水路にせり出したデッキの上で、星を眺めながら食事を楽しむことができるのだ。 理人と小夜子もまた、夜空と、時折水路に現れる水の精霊《ウンディーネ》たちを眺めながら、懐石を(続きを読む)