されど日々は過ぎて

2018-07-24

秘密を作った。 彼女が「ねぇ、」と切り出せば、それは誰にも《秘密》の《秘め事》なのだった。   僕が彼女と同じ会社にいるのはあと1ヶ月だから、こうして毎晩のように何処かへ出かけて《秘め事》をしたとしても、せいぜ(続きを読む)


添いとげる理由

2018-07-07

「ねえ、約束覚えてる?」 妻が言った。 「……ああ、覚えてるよ」 「若かったわ」 「後悔、してるのか?」 「……愛してるわ」 妻は目を伏せた。 「僕だって愛してるさ、だからこの家を買った、50年もローン組んで」 彼女は首(続きを読む)


文学フリマ、終了!

2018-05-06

本日、燐灯書庫にお立ち寄りいただきましたみなさま、ありがとうございました! 一同とても嬉しく、次回の構想を話し合っておりました。 またの活動の告知やご報告はこちらのサイトで行いますので、時々覗いていただけたら幸いです。


よくある光景

2018-04-07

食卓越しの二人の顔は、渋かった。 「父さんは反対だ。人間界なんて、そんな野蛮で危険な!」 それを制するように、母は私へ訊いた。 「どうしても、行きたいのね」 私は頷く。 「海の生活が嫌いなわけじゃないの、でも、ずっと陸で(続きを読む)


夜明けの軋み 6話 ふたたび、ふたたび春、萌芽

2018-03-04

桜も玉蘭も散った。 そして、無愛想に枯れたような枝から、柔らかな黄色い芽が顔をのぞかせたと思うと、あっという間に新緑の装いを纏う。 橘は、慣れ親しんだ小夜子の家の庭を思い浮かべながら、整然と区画された紅が丘の街並みに車を(続きを読む)


夜明けの軋み 5話 春ふたたび、玉蘭

2018-03-04

ふと、理人が顔を上げて呟いた。 「桜はまだ咲きませんね」 彼は日当たりの良い廊下で、本を読んでいた。 淹れた緑茶を彼に差し出しながら、小夜子は長いスカートの中で足を崩す。 「今は玉蘭かしら」 「ギョクラン……」 「白木蓮(続きを読む)


夜明けの軋み 4話 冬、梅

2018-03-04

大晦日に降りだした大雪が、外出をためらわせていた。 高台に建つこの家からは、雪に覆われた紅が丘が一望できる。 サニータウンにはまだちらほらと空き地もあるはずなのだが、雪は全てを隠している。 年が明け、三が日の終わりが見え(続きを読む)


夜明けの軋み 3話 秋、鬼灯

2018-03-04

「浴衣って、意外と暑いでしょう?本当はもう少し涼しくなってからの方が着やすいんですけど」 夕方といえど、まだ外は明るく、蒸し暑い。 この和室も、風が抜けるとはいっても吹き抜けるのは熱風、部屋が涼しくなるようなものではない(続きを読む)


夜明けの軋み 2話 夏、カンナ

2018-03-04

受付の混雑がひと段落して、小夜子はふう、と息をついた。 左手をひねって腕時計を見る。12時18分。昼休みの時間をとっくに過ぎている。 売店からパンでも買ってこようか、いつも空いてるうどん屋へ行こうか。けれど、銀行員のよう(続きを読む)


夜明けの軋み 1話 春、桜

2018-03-04

【幻界ゲート】の発見と幻族の流入は、世界を騒然とさせた。 国や地域によっては排斥運動や虐殺まで行われたという。 しかし、日本では時の政府が、少子化問題の切り札として、いち早く幻界融和の政策を打ち出していた。 人口の流出を(続きを読む)