帰りそびれたサンタ

2017-05-01

「サンタさん、来なかった……」 「……コウジ……」 うつむいて呟く小さな背中に、かける言葉が無かった。 息子に気づかれないように小さくため息をついて、彼女は胸の中で夫『だった』奴を罵った。 ——『仕事』で徹夜だったなんて(続きを読む)


踏み出すのは足、繋がるのは… 【後編】

2017-05-01

祭りの会場から離れても、商店街には紅白の提灯が並んでいる。 マコは田端と歩きながら、そこに書かれた店や会社の名前を、一つずつ眺めていった。 「どうして赤と白はめでたいのかしら」 「さあね……赤なんて、どう考えても血の色だ(続きを読む)


踏み出すのは足、繋がるのは…【前編】

2017-05-01

駅前マンションのエントランスから出てきたマコは、通りの祭囃子にため息をついて、もうすぐ夫となる人の手を握りなおした。 彼はマコの不機嫌そうな顔に気づき、背を丸めて覗きこむ。 「どうしたのマコちゃん?」 自分の長いウェーブ(続きを読む)


贄の仔育(こそだて)

2017-05-01

或る山深い峡谷に、春の一ヶ月だけ、陽のあたる谷があった。一ヶ月、芽吹き花咲くうちにも桜が最も優美なので、『櫻乃郷』と呼ばれていた。深く険しい山の中、そこに踏み入る人間は道に迷った猟師だけ。麓の村では、古くからの言い伝えに(続きを読む)


狐火の唄

2017-05-01

或る山深い峡谷に、春の一ヶ月だけ、陽のあたる谷があった。一ヶ月、芽吹き花咲くうちにも桜が最も優美なので、『櫻乃郷』と呼ばれていた。 深く険しい山の中、そこに踏み入る人間は道に迷った猟師だけ。麓の村では、古くからの言い伝え(続きを読む)