2 ー マリア

2017-05-01

その運命の日、あたしは屋台村からみんなと反対方向へ逃げてから、誰よりも早く教会の裏口をくぐったの。 教会なんておせっかいなところ、ほんとは行きたくなかった(ママは敬虔なクリスチャンだったけれど、あたしはごめんだわ)。 で(続きを読む)


1 ー ラウル

2017-05-01

その頃、オレの生きる街ではしょっちゅう、大人たちが喧嘩をしていた。 例えばバスを待つ列。 例えば屋台のテーブル。 最初は、並び順だの肩がぶつかっただのオレにもわかるような因縁つけに始まって、そのうち「グォチンジェ(国慶節(続きを読む)


セント・ウァレンティヌスからの祝福

2017-05-01

小学校の正門は、「関係者以外立入禁止」と、ルビのふった看板がつけられている。 コウジは鍵のかかったそこを、器用によじ上る。 「入って平気?」 「だって、おれ『かんけいしゃ』だよ?」 「まあ……そっか」 コウジのあとに続い(続きを読む)


帰りそびれたサンタ

2017-05-01

「サンタさん、来なかった……」 「……コウジ……」 うつむいて呟く小さな背中に、かける言葉が無かった。 息子に気づかれないように小さくため息をついて、彼女は胸の中で夫『だった』奴を罵った。 ——『仕事』で徹夜だったなんて(続きを読む)


踏み出すのは足、繋がるのは… 【後編】

2017-05-01

祭りの会場から離れても、商店街には紅白の提灯が並んでいる。 マコは田端と歩きながら、そこに書かれた店や会社の名前を、一つずつ眺めていった。 「どうして赤と白はめでたいのかしら」 「さあね……赤なんて、どう考えても血の色だ(続きを読む)


踏み出すのは足、繋がるのは…【前編】

2017-05-01

駅前マンションのエントランスから出てきたマコは、通りの祭囃子にため息をついて、もうすぐ夫となる人の手を握りなおした。 彼はマコの不機嫌そうな顔に気づき、背を丸めて覗きこむ。 「どうしたのマコちゃん?」 自分の長いウェーブ(続きを読む)