【感想】フワつく身体 作:すと世界【小説】

最初にこの作品と出会ったのは……まさしく『出会い』だったのだけれど、2017年11月の文学フリマ東京だった。

初めて一般参加した私は、「無料配布でーす」の声に弱かった。
あちらこちらで頂いたチラシや小冊子。
《フワつく身体》はその中のひとつだった。

クラフト紙に、渋谷109を中心とした写真の表紙。
中をめくると、90年代論壇、あるいはベストセラーからの引用文。
女子高生の日記に記された百合的関係。
鉄道警察隊女性隊員である主人公。

これはミステリーではないか。
しかも、私と同世代の物語……というより、記録だ。

夢中で読んだ小冊子は、【予告編】だった。
これは、スケールが大きすぎる。
ご存命なら栗本薫先生あたりが題材にするようなものではないか。それこそ【平成という時代を総括する】ものになる……

書き手の すと世界さん(@sutosekai)へ「続き待ってます」と言いながら、同人作家さんへこのテーマは、重荷すぎはしないか、と思ったりした。
そんな作品です。

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注意●ここからは若干のネタバレあります。

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鉄道警察隊渋谷分駐隊所属の深川環は、いつまで経っても慣れない人身事故の対応をしていた。
被害者が残した最後のツイート【トパーズを拾え】。
高校時代の友人・美頼との邂逅、そして彼女の死。
20年前に死んだはずの友人「タチバナカナ」の亡霊。
踏切自殺に見せかけた連続殺人、その目的は?

援助交際、ブルセラ、完全自殺マニュアル、セミナー、小林よしのり、デートクラブ、S、酒鬼薔薇、宮台真司、性的虐待、河合隼雄、村上龍……。

重い、という意味では、確かに重かった。
しかし美頼やカナや環とほぼ同世代であり、また、急行30分で都心に出られる環境にいた私にとって、この物語は懐かしい虚無の匂いがする。

(尤も、私はトーキョーの入口が池袋であったので、渋谷起点の彼女らとは若干毛色の違いはある)

援助交際のバレたクラスメイトが自主退学になったり、
表通りから一本入った裏道で信号待ちしていれば「偽造テレカアルヨー」と声を掛けられたり、
テレフォンクラブで呼び出した男を物陰からこっそり見てみたりした【あの頃】。

日常の傍に、大人の掘った落とし穴がポッカリと私たちを待ち受けていた。
『大人』側となった今では、かなり危ない橋を渡っていたと思うのだが、当時、そんな危機感は持ち合わせていなかった。

作中、聡明な強者として描かれていたカナが堕ちていく様は『天使のような』彼女だからこそで、またそういった少女の周りには、当時無数の落とし穴が掘られていたのだ。
ミヨリはというと、憧れていたカナを失うことにより、壊れてしまう。
二人は時代の被害者だ。

では、対する環がいわゆる『勝ち組』であったかというと、そういった描写はされない。
環は公権力だなんだと言われるが、組織内では女性であることを理由に疎ましく思う連中も相手にしなければならない。
それでも環は同世代の仲間に寄り添おうとし、その痛みを感じようと努力する。
それはある面で《ノブレス=オブリージュ》であるのかもしれないが、『勝ち組』であったというよりは、『サバイバー』であったということなのだろう。
そんな環に好感をもつ読者は、私だけではないはずだ。

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全366ページ。作者曰く、「鈍器」。
しかし語り口は軽やかだ。
美頼の日記は口語調だし、渋谷分駐隊のメンバーもミステリーの王道をゆくキャラクターだ。
長編だが読んで飽きることはない。

正直言うと、鈍器と聞いた時、なぜそんな長さに…と思わなくもなかった。
だが読んでみると、削って良いエピソードはひとつもない。
過去と現在を行き来する構成で全容が明らかになっていく形は美しい。
引用文で当時の世相を 思い起こさせる/解説する ようにしたのも親切であり、また、【あの頃】の残酷さを際立たせる効果もある。

果たしてこれが同人作品であるということに舌を巻く。
そしてこれが平成最後の秋に頒布されたことをもって、それだけで様々な意味がある。
平成を総括すること。
それが同人で作られたこと。
それが大きなイベントで頒布されていること。
読者から『この作品について語りたい!』と声が上がっていること。

この本を読まずに平成は終わらない。
次は1/20文学フリマ京都にて頒布だそうです。

(了)

余談ですが、フワつく身体関連で一番好きなツイートがこちら
ほんとこの奥付、胡散臭くてすきw

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