ホメオスタシス

現代文の授業中、先生に指名された真由は『こころ』の一文を読みながら、ふらふらと歩き出した。
先生の制止も聞こえない様子で、教科書を投げ捨て、最後の2、3歩は走るようにして、窓から身を投げた。

私たちはみんな、ただ呆然と彼女の消えた窓を見つめた。
誰かが悲鳴をあげ、やっと先生が窓に駆け寄る。
私も窓から下を覗いた。
5階から転落しても、死なない人もいる。
でも、彼女の落ちた白いコンクリートに広がる赤いシミは蝶の羽根の形に広がっていったし、他にも柔らかそうな何かがこぼれていた。

「早くお前が殺したと白状してしまえ」
誰かが『こころ』の一節を口にした。

慌てて教室を出ていった先生以外、みんな黙って自分の席に座った。

「アポトーシス。クラスを維持するための」
「どうして真由が」
「誰でも良かったんじゃん。真由は自分だと思ったんだよきっと」
「でもこれで」
「私たちの《賞味期限》は守られる」
「新鮮だね」

窓を埋める空は青かった。
私はぼんやりとそれを眺めた。
真由の顔を思い出そうとして、うまく思い出せなかった。

私たちは同じ顔をした《生徒》。
次は、私の番かもしれない。

(了)

#ノベルちゃん三題
https://twitter.com/fairy_novel/status/1117034719617531905?s=21

※2019.4.13 にツイッターへ投稿したものを少し改稿しました。

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