ホメオスタシス投稿日:2019-04-14 |
現代文の授業中、先生に指名された真由は『こころ』の一文を読みながら、ふらふらと歩き出した。
先生の制止も聞こえない様子で、教科書を投げ捨て、最後の2、3歩は走るようにして、窓から身を投げた。
私たちはみんな、ただ呆然と彼女の消えた窓を見つめた。
誰かが悲鳴をあげ、やっと先生が窓に駆け寄る。
私も窓から下を覗いた。
5階から転落しても、死なない人もいる。
でも、彼女の落ちた白いコンクリートに広がる赤いシミは蝶の羽根の形に広がっていったし、他にも柔らかそうな何かがこぼれていた。
「早くお前が殺したと白状してしまえ」
誰かが『こころ』の一節を口にした。
慌てて教室を出ていった先生以外、みんな黙って自分の席に座った。
「アポトーシス。クラスを維持するための」
「どうして真由が」
「誰でも良かったんじゃん。真由は自分だと思ったんだよきっと」
「でもこれで」
「私たちの《賞味期限》は守られる」
「新鮮だね」
窓を埋める空は青かった。
私はぼんやりとそれを眺めた。
真由の顔を思い出そうとして、うまく思い出せなかった。
私たちは同じ顔をした《生徒》。
次は、私の番かもしれない。
(了)
#ノベルちゃん三題
https://twitter.com/fairy_novel/status/1117034719617531905?s=21
※2019.4.13 にツイッターへ投稿したものを少し改稿しました。