「私」の「鍵」

 うっかり、私は私の鍵を失くしてしまった。
 困った。
 私を開けて中を見れば、記憶を確認できる。しかし、鍵を失くした今、ここ一年ほどの記憶が開けられない。
 軽快な着信音が響く。スマホを見ると男の名前が表示されている。着信履歴を調べる。毎晩通話してるようだ。彼氏だろう。
「そうだよ、俺はお前の彼氏。鍵、俺んちに忘れてっただろ?駅まで来て」
笑いながら言う。私は慌てて駅まで行った。
「ごめん、ありがと」
受け取った鍵で私を開く。
「えっ」
私は、この男を知らなかった。男が、私の目の前にもうひとつの鍵をぶら下げて見せる。
「合鍵、つくっちゃった」
へらへら笑うその顔に、私は恐怖した。
               (終)

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