【ひとくち感想】アンソロジー BALM 赤盤【ネタバレあり 随時更新】

カテゴリ:感想

投稿日:2022-07-04

 『BALM』とは、参加者が掌編小説2編とエッセイ1編を寄せたアンソロジー。主催はオカワダアキナさん(@Okwdznr)、純文学の書き手さんです。私はそのおおざっぱで繊細で不真面目でまじめな作風が好きで、このアンソロジーでは私もそんな氏の作風をふまえて作品を寄せてみた。
 ここでは読後のインスピレーション的な感想を上げていきたい。一日一作家が目標です。

 表紙はえもさん(@tatamy_uma)。オカワダさん作品の表紙をたびたび飾られていて、なんともいえない脱力感が素敵だなあと思ってた。今回のアンソロジーは2冊組で、それぞれ赤と青を基調としたデザイン。表紙には、えもさんの描く女の子がなんともいえない表情で居る。
 掲載された小説はどれもすっきりさっぱりとは割り切れないものが多くて、えもさんの描く女の子の表情がとてもマッチしている。主催のオカワダさんがそういう傾向のものを書かれる、というイメージも私の中にある。

以下感想です。展開に言及した感想もありますので、まだ読んでない方はご留意ください。


伊藤なむあひさん
お名前はTLでたびたび拝見していたけれど、作品を読むのは初めて。
『ああああ』は早送りの人生ロードムービーみたいな感じで、最後は燃える牛車を眺めているような気持になった。面白い、んだけど、手放しで面白いと言うのがはばかられるのはなぜだ。
『ハッピー・バースディ・トゥ』は読んでいて苦しくなる。ラストは解放なのだけどすっきりしない、澱のような読後感が残った。
エッセイ『本を食べてパンを聴く』は、同録小説2作の解説と創作の経緯について。自分以外の書き手の創作エッセイって興味深いよね。「説明するのが難しいんだけどだからこそ小説という形で書いてる」に深く共感した。


赤澤玉奈さん
『手紙』友達が引っ越して中断された交換ノートをめぐる長い時間が、波のうねりのような丁寧で詩情を感じさせる文体で語られていく。自分が変わってなおそこにあるものを見つめる目がいい。
その文体が『さわって』ではさらに柔らかく力強い詩となっていた。「暗い穴の奥ではなくて、生活に代入してやりたかった」が好き。
『掃除と雑巾とわたし』、タイトル通り掃除のエッセイなんだけど、出てくる建物に対する感性が面白かった。手のかかるロボットだったり、泥すくいあげた雑巾が墨を吐く獲物だったり、蔵の中を腹の中だったり。そんなふうな見え方の中で生活するのはきっと楽しいだろうなと思った。


阿瀬みちさん
『Familiar』、ただの「わたし」であり続けようとする、切実さ。周囲の人間の生ぬるさ。「わたし」のいらだちには私にも覚えがある、もう遠いものになってしまったけれど……。いろいろを思い出させてくれた作品だった。
『パーフェクトブルー』、生々しい生理の描写から「子宮を持たない若い男」との夢想へ飛躍するのがいい。その夢想は従来のジェンダーをひっくり返したもの……ではあるんだけど、気持ちいいなって思っちゃった。最後の一文が眩しくて好き。
エッセイ『キラキラカテゴライズ』。カテゴライズされるのは猛烈に嫌悪するのに、ふとした瞬間に出てきてしまう刷り込まれたカテゴリー。小説からも感じたんですが、とても自分に正直で誠実な書き手さんだなと思いました。


淡谷慈さん
『逃走』。特別でもない男との旅行、捌け口としてのセックスからの逃走。どうにもうまくいきそうにない展開からのまさに「カラフルなパズルゲームでフィーバーする時の」エフェクトに彩られた「私」が目に浮かんで思わずニヤニヤしてしまった。爽快!
『統合』は、交通事故で意識と身体が分離して、という幽体離脱の話なんだけど、死んで焼かれるところまでの話はあまり読んだことがなくて、途中からちょっとビビったのは内緒。でもホラーではなく、(……いや、ホラーでしょ?)淡々とした語り口で、怖がらせる意図は感じられない。最後の裁判長は閻魔大王なのかな。
『転生の日』。子どもを通した付き合いからすこし発展して、「もしタイムスリップして同じクラスに所属したとしても、お互い特に話しかけようとは思わないだろう」という同士が新たな連帯を作る、そのありがたみ。しみじみと頷きながら読んだ。


あめのにわさん
小説二作はどちらも関係性が印象的だった。『鍵を返す』の「ぼく」と「サチヨさん」は、数年ぶりの再会でお互いの様子を探っている。かつての同居人が突然現れても動じないサチヨさんと、その変わり様をじっと見つめるぼく。冷えきった二人の距離がわかってしまう。『出番待ち』の「シゲル」と「カツジ」は高校生コンビ、単位のためにヒーロースーツを被るも、他のヒーローたちを食い入るように見つめ肩を並べている。演るより見るほうが好きなふたりの将来が楽しみになる。
『映画鑑賞録(抄)』は名画座で観た映画の感想。知らない映画のレビューって読まない方なんだけど、これは好き!知ってる俳優さんが出てきたり、あらすじもなんとなく理解できるからかな?(自分、昭和なので……)もっと読みたくなった。


燐果さん
これ自分なんですけどね。ちょっと触れておこうかなって思います。
『祭司と魔女』オカワダさんのアンソロに参加ということで、なんというかこう、生々しくかつ爽やかな話を書こうと思った。どういうことだろね。オカワダさんからの感想(寄稿者全員が感想を頂いた)では、「一般的にエキセントリックな女の子に対してはなすがままの男の子が出てくることが多いんだけど、この僕は自分を「祭司」だとか言っちゃうとこがいい」というようなことを言っていただいた。私も、この僕ってセックスのクライマックスに「宴もたけなわではございますが」とか言っちゃいそう(言ってない)なとこが気に入ってるのでうれしかった。
『ルーチン』は帰宅後寝るまでの女性の様子をつづったものなんですが、私、パラレルの自分を想像することがけっこうあって、この話も当初は「私が一人で暮らしていたら」という着想でした。
『GRIS ―修復の物語―』は、「GRIS」という評価の高い雰囲気ゲーのレビュー。もともとは「雰囲気ゲーのなにがわるい!!」という呪詛のような、このサイトに上げ損ねて下書きに入ってた文章です。少しお上品に書き直しました。