暁光

カテゴリ:読み物

投稿日:2022-11-05

 わたしはその時まで、なにも見えなかったのです。おぼえているかぎり、この小さな窓から見える通りのけしきと、しなさだめをする男のひとたちだけが全てでした。くらい夜のこれが、わたしの人生でした。

 だからあなたがやってきて、わたしを買い受けると言ったとき、なにが変わるとも思いませんでした。あなたの家に窓はあるのかしら、そこから外を見ることはできるのかしら、そんなことしか思いませんでした。
 でもあなたが手ならいを、りょうりを、ぬい物をおしえてくれた。いま、いろいろなものが見えます。あなたは言いました、それが『きぼう』なのだと。

 わたしにあさがきたのです。
 これがあさのひかりなのですね。