不本意な覚醒投稿日:2017-05-01 |
ヒュウウウウ、パアァン
シュルルル、カーン
また隣の公園で花火か…俺は目覚めて窓を開けた。
「こら!今何時だと思ってるんだ!!」
ヒュウウウウ、ドカァン
シュルルル、ズウゥン
ガガガガガガガガガ
ギリリ、ギリリ、ガタンガタン
戦車が、歩兵が、火花を散らしている。
そこに広がっているのは、戦場だった。
「……?」
俺は窓を閉めた。
「ええと、今何時だっけ?」
時計を見る。3時。
磨りガラス越しに見える外は、閃光が飛び交っているものの暗く、それはまだ夜だということを示している。
寝ぼけているのだろう、と考えたのは当然の反応だ。昨日の工場夜勤が明けて帰宅してから、かれこれ18時間は寝ていたのだ。
「寝よう」
ヒュウウウウ、ドカァン
シュルルル、カーン、ドオオォン
「……眠れねえしこれはもう……」
布団に潜り、耳を塞いだ。
「寝ないと。明日早番ルーチンだし」
ピンポン!とインターホンが鳴った。
無視を決め込む。
ピンポン…ピンポンピンポンピンポン
「衛生兵!!衛生兵!!負傷者ノ手当テヲ早ク!!!」
玄関の外、インターホンから叫ぶような声が聞こえる。
「あああもう!!」
俺は枕の横のティッシュボックスを引っ掴むと、玄関に向かってどすどすと歩き、ちょっと立ち止まって棚から救急箱を持つとドアを開けた。
「もう誰!?負傷者どこ?!?!」
「オ休ミノトコロ申シ訳アリマセン、ワタクシハ第18大隊ブロックB−4、マーク・ロジ…」
「ああはいはい、早く見せて」
「ハイ、オソレイリマス」
抱き下ろされた兵士はブロンドの若い男で、胸に銃弾で開けられたであろう穴が、赤く染まっていた。
俺は救急箱から出した脱脂綿にマキロンを染み込ませて、胸の穴に当てた。
染みるのか、負傷した兵士は呻いた。
「ええー…これ以上どうしたらいいのかなあ…」
連れてきた兵士は負傷した兵士に寄り添いながら、リュー、死ぬな!リュー!!と声を掛けている。
俺の手は血で汚れたマキロンを持っていた。
それはなすすべなく現れた戦場そのものだった。
「これは……現実だ……」
受け入れざるを得なかった。
静かな夜は、もう来ない。
(終)(お題:静かな夜中 制限時間:30分)