食すれど – 狐火の唄 –投稿日:2018-10-06 |
ここは櫻乃郷、竜の墓場。
死にかけの竜が墜ちてくる。
女狐が、小さな家に住んでいる。
怪我した猟師と、住んでいる。
「竜が堕ちると、そなたはなぜ泣くのだ」
「わかりません…悲しいわけではないのです、縁もゆかりもない竜ですもの」
女狐の涙は、青い炎となって竜の身体を焼く。
焼かれた竜を女狐は食べる。
彼女はそれで、生きていた。
「ただ…」
「ただ、なんだね?」
「私も…生きねばならぬのです、それだけです」
女狐は、そっと顔を背けて立ち上がった。
「お夕飯にしましょうか。韮と卵のお粥を召し上がりませ」
「ああ」
怪我の具合もよい。
明日は久々に狩りへ出よう。
猟師はそう決めて、かまどへ向かう彼女を見つめた。
(了)