『闇屋』#Twitter300字SS お題【買う】

2022-05-07

 やあ、いらっしゃいお嬢さん、今日は珍しい闇が入ってるよ。  ふと気づくと、薄暗い店の中にいた。声のする方を向くと、この店の主人——頭が土星、白いシャツに黒いズボン、デニムのエプロン——が、小さな鳥かごを手に持っていた。(続きを読む)


ふるさと

2020-07-04

記憶の中の赤い橋は、長さこそ50メートルほどあれど幅が狭い、小さな橋だった。 「へえ。いつ作り替えたの」 いつの間にか私の横にいる、幼い頃の私が問う。 「高校生の時、だったかな。どんな工事だったっけ…」 私はその小さな手(続きを読む)


勇者ものがたり

2019-08-03

僕は勇者だ。 村を焼いた魔王を倒すため、北へ向かって旅に出た。 「あっ、オオカミだ!」 唸りを上げるオオカミに剣を振り上げ、叩き斬る。 経験値がひとつ上がった。 僕は森を抜け、砂漠をゆく。 突然、遺跡のレンガが人型に積み(続きを読む)


夜を掬う —宵闇の、溢れて朝[序章]—

2019-06-24

ここは東の最果て。切り立った断崖の遥か下に、白い波が現れては消える。この高さだけをみても、大昔、身投げの名所だったという話は理解できる。ましてや、満月の夜ならばその遺体は人魚に弔われるのだとか、波間に顔を出す海竜の餌食に(続きを読む)


ハレノヒ(白のブルース)

2019-01-20

今日は旧世界でいうところの大晦日。 昼から降り始めた雪が積もり、客足は例年より少なかった。 今年最後にメラクを指名した客は、竜人への偏見厳しい老いた浮浪者であった。 世界が『こう』なってしまったのは奴等の所為だとか、キメ(続きを読む)


食すれど – 狐火の唄 –

2018-10-06

ここは櫻乃郷、竜の墓場。 死にかけの竜が墜ちてくる。 女狐が、小さな家に住んでいる。 怪我した猟師と、住んでいる。 「竜が堕ちると、そなたはなぜ泣くのだ」 「わかりません…悲しいわけではないのです、縁もゆかりもない竜です(続きを読む)


星回廊、にて。

2017-10-07

燈籠町で最近人気なのが『星回廊』という名の和食店。 水路にせり出したデッキの上で、星を眺めながら食事を楽しむことができるのだ。 理人と小夜子もまた、夜空と、時折水路に現れる水の精霊《ウンディーネ》たちを眺めながら、懐石を(続きを読む)


ライフ・イン・ザ・ホワイトコート

2017-05-01

「逃げたぞ!探せ!!」 私が居た洞窟の方で声がしたので、急いで牢獄へ向かう。 この30年の人生の中で使ったこともない筋肉を使っているんだろうなあ、という、その場に似つかわしくないぼんやりとした思考を、白衣…というほど既に(続きを読む)


贄の仔育(こそだて)

2017-05-01

或る山深い峡谷に、春の一ヶ月だけ、陽のあたる谷があった。一ヶ月、芽吹き花咲くうちにも桜が最も優美なので、『櫻乃郷』と呼ばれていた。深く険しい山の中、そこに踏み入る人間は道に迷った猟師だけ。麓の村では、古くからの言い伝えに(続きを読む)


狐火の唄

2017-05-01

或る山深い峡谷に、春の一ヶ月だけ、陽のあたる谷があった。一ヶ月、芽吹き花咲くうちにも桜が最も優美なので、『櫻乃郷』と呼ばれていた。 深く険しい山の中、そこに踏み入る人間は道に迷った猟師だけ。麓の村では、古くからの言い伝え(続きを読む)