嵐の日の猫

クロイネはメスの黒猫だ。
ピンと立てた耳は大きめで、ほっそりした顔立ちをやや幼く見せている。いつもこじんまりと座り、ゆっくりと、長い睫毛で瞬きする。
「ミャーオゥ」
高く掠れた声で鳴き、首をひねってわたしを見る。

ぽつ、ぽつ。
降り始めた夕立は、すぐに強い風を伴ってザ、ザッと窓を叩いた。
テレビに、豪雨警報の速報が流れる。
雨は風に翻弄され、激しく弱く窓を打つ。
意志を持つ、それは音楽だった。

丁寧に顔を洗っていたクロイネはその手をとめ、嵐の音に耳をすませた。
鼻の周りをヒクヒクとさせ、しきりにヒゲを動かす。
そして、もう我慢ならぬというように、テレビの前の空間にタタと走り出たかと思うと、フワッと後肢で立ち上がった。
前肢を横へすうっと広げると、雨だれに合わせてバレエを踊り出す。

バランスの良いアラベスク。からのジュテ、アントラッセは美しく回転後の静止。
目を丸くして見ていたわたしに視線だけ向けて、ミャーオゥと鳴いた。

(そうね、おまえ、テレビでバレエ観るのすきだったものね)

クロイネは鼻先をツンと上げ、すこし、笑った。

《了》

(アンソロジー『猫が人のふりして作曲家している』選外作品)

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