もういない夏

カテゴリ:現代物, 読み物

投稿日:2022-07-02

 むっと暑い庭先の駐車場で、犬に冷たいシャワーを浴びせる。焼けたコンクリートに水が流れ、犬は喜び跳ね回る。爪がカツカツと音を立てる。ひとしきり濡れた毛にシャンプーを垂らすと、犬は急に顔を伏せ、しおしおとおとなしくなる。喉元や腋の下、尻の周りは念入りに。まるで子どもを洗うように丁寧に、しかし手早く。泡を流す頃にはすっかりしょぼくれて、彼は地面を見つめている。シャワーを止めるキュッという音。そろりそろりと顔をあげ、私を上目遣いで見ると、ブルブルブルッ、身体を振って水を飛ばした。あっ、もう、こら。怒る気など全くない声で私が笑うと犬も、やっと舌を出して笑った。

 夏、戻らない夏。いまはもういない犬。