夜明けの軋み 5話 春ふたたび、玉蘭
2018-03-04ふと、理人が顔を上げて呟いた。 「桜はまだ咲きませんね」 彼は日当たりの良い廊下で、本を読んでいた。 淹れた緑茶を彼に差し出しながら、小夜子は長いスカートの中で足を崩す。 「今は玉蘭かしら」 「ギョクラン……」 「白木蓮(続きを読む) |
夜明けの軋み 4話 冬、梅
2018-03-04大晦日に降りだした大雪が、外出をためらわせていた。 高台に建つこの家からは、雪に覆われた紅が丘が一望できる。 サニータウンにはまだちらほらと空き地もあるはずなのだが、雪は全てを隠している。 年が明け、三が日の終わりが見え(続きを読む) |
夜明けの軋み 3話 秋、鬼灯
2018-03-04「浴衣って、意外と暑いでしょう?本当はもう少し涼しくなってからの方が着やすいんですけど」 夕方といえど、まだ外は明るく、蒸し暑い。 この和室も、風が抜けるとはいっても吹き抜けるのは熱風、部屋が涼しくなるようなものではない(続きを読む) |
夜明けの軋み 2話 夏、カンナ
2018-03-04受付の混雑がひと段落して、小夜子はふう、と息をついた。 左手をひねって腕時計を見る。12時18分。昼休みの時間をとっくに過ぎている。 売店からパンでも買ってこようか、いつも空いてるうどん屋へ行こうか。けれど、銀行員のよう(続きを読む) |
夜明けの軋み 1話 春、桜
2018-03-04【幻界ゲート】の発見と幻族の流入は、世界を騒然とさせた。 国や地域によっては排斥運動や虐殺まで行われたという。 しかし、日本では時の政府が、少子化問題の切り札として、いち早く幻界融和の政策を打ち出していた。 人口の流出を(続きを読む) |
狐姐さんと竜猟師【狐火の唄】
2017-12-11文字書きが作品に絵をつけてもらえるというのは、この上なく幸せなことであります。 |
狐火の唄
2017-05-01或る山深い峡谷に、春の一ヶ月だけ、陽のあたる谷があった。一ヶ月、芽吹き花咲くうちにも桜が最も優美なので、『櫻乃郷』と呼ばれていた。 深く険しい山の中、そこに踏み入る人間は道に迷った猟師だけ。麓の村では、古くからの言い伝え(続きを読む) |