勇者ものがたり

2019-08-03

僕は勇者だ。 村を焼いた魔王を倒すため、北へ向かって旅に出た。 「あっ、オオカミだ!」 唸りを上げるオオカミに剣を振り上げ、叩き斬る。 経験値がひとつ上がった。 僕は森を抜け、砂漠をゆく。 突然、遺跡のレンガが人型に積み(続きを読む)


シリーズ『あなたとわたしをつなぐ本』

2019-06-30

わたしの書く物語は、わたしが必要としているから書いている。 と同時にそれは、誰かにとっても必要な物語であるかもしれない。   テーマは《色》。 1つの色につき三部だけ作ります。 一部はお買い上げいただいたあなた(続きを読む)


嵐の日の猫

2019-05-29

クロイネはメスの黒猫だ。ピンと立てた耳は大きめで、ほっそりした顔立ちをやや幼く見せている。いつもこじんまりと座り、ゆっくりと、長い睫毛で瞬きする。 「ミャーオゥ」 高く掠れた声で鳴き、首をひねってわたしを見る。 ぽつ、ぽ(続きを読む)


ホメオスタシス

2019-04-14

現代文の授業中、先生に指名された真由は『こころ』の一文を読みながら、ふらふらと歩き出した。 先生の制止も聞こえない様子で、教科書を投げ捨て、最後の2、3歩は走るようにして、窓から身を投げた。 私たちはみんな、ただ呆然と彼(続きを読む)


麗らかな春の10歳

2019-04-06

「ねえおかあさん見て!玄関にツバメが来たよ!巣作りするかな?ひな生まれるかなあ?あーダンボールとか下に敷いた方がいい?落ちたら大変だよね!!」 「気が早いわよ」 「だよねえ」 咲(さき)と名付けた娘は、願いどおりよく笑う(続きを読む)


《bar ティアドロップス》

2019-03-02

そこは、駅から10分の裏路地。 《bar ティアドロップス》 今にも力尽きそうな古い看板と、年季の入った木製のドア。 これまでに何度も、立ち止まって看板だけ眺めては踵を返す、ということが続いている。 「…まあいいや。どう(続きを読む)


インフルエンザ・ウィズ・ヴァンパイア

2019-02-02

「理人さん!お返事、できますか…!」 小夜子は居間に横たわる理人の耳元で声をかける。 彼はうっすらと目を開けた。 「ああ! いま救急車を呼ぼうかと」 「…大丈夫、ですよ」 「さっき飲んだお薬、人間用だったんです! あそこ(続きを読む)


わたしのペンは何を救うのか

2019-01-31

「『救う』という態度は傲慢だ」 と言われたことがある。 そこに上下関係・強者と弱者を読み取れば、確かに傲慢さを感じなくはない。 それに続いて、 「『寄り添う』が対等だ」 と言う。 『寄り添う』だけで解決する問題はある。 (続きを読む)


ハレノヒ(白のブルース)

2019-01-20

今日は旧世界でいうところの大晦日。 昼から降り始めた雪が積もり、客足は例年より少なかった。 今年最後にメラクを指名した客は、竜人への偏見厳しい老いた浮浪者であった。 世界が『こう』なってしまったのは奴等の所為だとか、キメ(続きを読む)


【感想】フワつく身体 作:すと世界【小説】

2019-01-05

最初にこの作品と出会ったのは……まさしく『出会い』だったのだけれど、2017年11月の文学フリマ東京だった。 初めて一般参加した私は、「無料配布でーす」の声に弱かった。 あちらこちらで頂いたチラシや小冊子。 《フワつく身(続きを読む)