添いとげる理由

2018-07-07

「ねえ、約束覚えてる?」 妻が言った。 「……ああ、覚えてるよ」 「若かったわ」 「後悔、してるのか?」 「……愛してるわ」 妻は目を伏せた。 「僕だって愛してるさ、だからこの家を買った、50年もローン組んで」 彼女は首(続きを読む)


よくある光景

2018-04-07

食卓越しの二人の顔は、渋かった。 「父さんは反対だ。人間界なんて、そんな野蛮で危険な!」 それを制するように、母は私へ訊いた。 「どうしても、行きたいのね」 私は頷く。 「海の生活が嫌いなわけじゃないの、でも、ずっと陸で(続きを読む)


魔捜課は直行直帰です!!〜赤提灯編〜

2018-03-04

「だからあ、武井さんはどぉんな女性が好みなんですか!ってきいてんのぉオレはァ!!」 「飲み過ぎじゃないのか」 「でえじょぶす!!おやじさあん、ちくわぶとばくだんちょうだい!」 瓶ビール一本で楽しそうだな、と武井は穂村を眺(続きを読む)


とめどなく。

2018-03-03

早くしないと、電車が来てしまう。 ねえさま、とわたしは言って、前を歩く制服の腕をつかんだ。 長い髪が私の手をくすぐった。 「ねえさまは、わたしが純血のエルフでなくても……愛してくれたの?」 ねえさまは振り向いて、少し驚い(続きを読む)


農耕貴族 ヴァンパイア鈴木さん

2018-02-03

視望山の麓で野菜作りに精を出す、ヴァンパイアの鈴木さん。 幻界から日本へ移住し、人の生気を吸うことをやめ、農業を始めて8年になる。 産地直売の野菜は、食べると元気が出ると評判だ。 「野菜づくりのコツ? 我は夜にしか畑に出(続きを読む)


星回廊、にて。

2017-10-07

燈籠町で最近人気なのが『星回廊』という名の和食店。 水路にせり出したデッキの上で、星を眺めながら食事を楽しむことができるのだ。 理人と小夜子もまた、夜空と、時折水路に現れる水の精霊《ウンディーネ》たちを眺めながら、懐石を(続きを読む)