「理人さん!お返事、できますか…!」 小夜子は居間に横たわる理人の耳元で声をかける。 彼はうっすらと目を開けた。 「ああ! いま救急車を呼ぼうかと」 「…大丈夫、ですよ」 「さっき飲んだお薬、人間用だ…
さらに表示 インフルエンザ・ウィズ・ヴァンパイアタグ: #幻奏世界
よくある光景
食卓越しの二人の顔は、渋かった。 「父さんは反対だ。人間界なんて、そんな野蛮で危険な!」 それを制するように、母は私へ訊いた。 「どうしても、行きたいのね」 私は頷く。 「海の生活が嫌いなわけじゃない…
さらに表示 よくある光景夜明けの軋み 6話 ふたたび、ふたたび春、萌芽
桜も玉蘭も散った。 そして、無愛想に枯れたような枝から、柔らかな黄色い芽が顔をのぞかせたと思うと、あっという間に新緑の装いを纏う。 橘は、慣れ親しんだ小夜子の家の庭を思い浮かべながら、整然と区画された…
さらに表示 夜明けの軋み 6話 ふたたび、ふたたび春、萌芽夜明けの軋み 5話 春ふたたび、玉蘭
ふと、理人が顔を上げて呟いた。 「桜はまだ咲きませんね」 彼は日当たりの良い廊下で、本を読んでいた。 淹れた緑茶を彼に差し出しながら、小夜子は長いスカートの中で足を崩す。 「今は玉蘭かしら」 「ギョク…
さらに表示 夜明けの軋み 5話 春ふたたび、玉蘭夜明けの軋み 4話 冬、梅
大晦日に降りだした大雪が、外出をためらわせていた。 高台に建つこの家からは、雪に覆われた紅が丘が一望できる。 サニータウンにはまだちらほらと空き地もあるはずなのだが、雪は全てを隠している。 年が明け、…
さらに表示 夜明けの軋み 4話 冬、梅夜明けの軋み 3話 秋、鬼灯
「浴衣って、意外と暑いでしょう?本当はもう少し涼しくなってからの方が着やすいんですけど」 夕方といえど、まだ外は明るく、蒸し暑い。 この和室も、風が抜けるとはいっても吹き抜けるのは熱風、部屋が涼しくな…
さらに表示 夜明けの軋み 3話 秋、鬼灯夜明けの軋み 2話 夏、カンナ
受付の混雑がひと段落して、小夜子はふう、と息をついた。 左手をひねって腕時計を見る。12時18分。昼休みの時間をとっくに過ぎている。 売店からパンでも買ってこようか、いつも空いてるうどん屋へ行こうか。…
さらに表示 夜明けの軋み 2話 夏、カンナ夜明けの軋み 1話 春、桜
【幻界ゲート】の発見と幻族の流入は、世界を騒然とさせた。 国や地域によっては排斥運動や虐殺まで行われたという。 しかし、日本では時の政府が、少子化問題の切り札として、いち早く幻界融和の政策を打ち出して…
さらに表示 夜明けの軋み 1話 春、桜農耕貴族 ヴァンパイア鈴木さん
視望山の麓で野菜作りに精を出す、ヴァンパイアの鈴木さん。 幻界から日本へ移住し、人の生気を吸うことをやめ、農業を始めて8年になる。 産地直売の野菜は、食べると元気が出ると評判だ。 「野菜づくりのコツ?…
さらに表示 農耕貴族 ヴァンパイア鈴木さんタンデム・パラレル・センチメンタルな夜
#1 アパートに帰って、もう一時間になる。 その間、エアコンはフル稼働して、私の部屋は熱帯から温帯にまで涼しくなった。 もうエアコンを止めて窓を開け、シルフの出入りを待っても良いのだけれど、動けずにい…
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